仕事集-S邸移築再生工事

もののけの里でよみがえる 古民家。

数年前、宮崎駿監督のアニメ「もののけ姫」の中に乙事主(おっことぬし)と言う猪が出て来ました。その乙事主の名前の由来は、この富士見町乙事にあるそうです。
武田信玄の棒道沿いに開けた開拓地乙事に古民家を移築したい。お施主様はそう考えました。しかし2年過ぎても3年過ぎても思い至るものとは巡り合いませんでした。そんな折、知り合いの工務店から、移築用に解体した建物を譲りたい旨…連絡がありました。「これに決めよう…」話は急展直下決まり、「巡り合わせもあるもんだなぁ…」と私は思いました。
長野県大町市、雪深い地に昔からある中2階の茅葺屋根の民家です。信州の民家を何とか残したい。お施主様も子供達も気に入っていました。ただ一人、お爺様だけが反対しました。

…それから1年。紆余曲折はありましたが完成しました。すでに150年経過した建物ですが、私達の意志で建てた証に地元の桜材で大黒柱を入れ替えました。前あった「大黒」は階段室の化粧柱に隠居してこれからもこの家を見守り続けます。
向かいは乙事諏訪神社です。神社に敬意をはらい、小屋組みのサス梁も切らずに屋根に残して、千木の様に現しました。付け足した材は地元材です。土台は木曽ヒバに害虫忌避剤の木タール塗り、柱は木曽のヒノキ、梁は赤松、化粧野地板は信州唐松を使用しております。屋根は二重に外断熱通気工法を作り、外気温5℃になると通気を止め、23℃になると通気をはじめる工夫を動力を使わず、自然の温度差で行う方法にしています。
断熱材は自然素材は(麻ウール)とネオマホーム・スタイロホームを使用し、塗料はピュアオイル・紅がら・墨などを使用しました。
設備に関しては、吹抜けなどがあり、冬寒い地方なので、床暖房と温水パネル暖房を併用し、薪ストーブも付け足しました。しかし実際のところ、晴天の日には何も使用せず、太陽の日だけでも十分暖は取れているようです。
これにはさすがにお爺様もこの家は暖かい家だと、今までの民家で暮らした体験では、考えもしなかった結果の様です。
所在地 長野県諏訪郡富士見町
設計者 関 謙二
棟梁 小林昌雄
用途 住宅
構造・規模 木造2階建 延床面積72坪

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